目次へ戻る

 

誰でも詐欺のかもになる

2005年6月29日

宇佐美 保

 620日の朝日新聞に次のような記事が載っていました。

 

訪問販売による悪質な住宅リフォームで、一つの工事をきっかけにさまざまな契約を結ばされてしまう被害が急増している。昨年度、こうした事例の相談は5年前の6倍になり、国民生活センターをはじめ各地の消費者センターは「次々(つぎつぎ)販売」と呼んで注意を呼びかけている。契約者の平均年齢は70歳。客になりそうな高齢者を見つけると家に入り込んで契約を重ね、群がっていく業者たちの姿が浮かぶ。

……

 こうした相談に応じている各地の消費生活センターの相談員らによると、次々販売に関与する業者は「アンテナが傾いている」などと言ってまず屋根から入ることが多い。一度工事させると屋根裏、床下、内装とたたみ込む。「悪質な業者は断り切れない高齢者につけ込み、しゃぶり尽くそうとします」。年金が振り込まれる日を狙って集金に来る例もあるという。

……

 「困ったことはありませんか」。親切そうに口にした。話し込んだ末、女性は庭に物置を造る工事を頼んだ。契約額は600万円だった。

……

 「水が汚れている」と言って浄水器を取り付けた。その後、業者は「点検」と称して何度も上がり込み、「床下が腐りかけている」「このままでは屋根が落ちる」などと脅して工事を重ねた。契約額は1年半で約1250万円になった。……

 

 この記事を読まれた多くの方々は、“こんな悪質業者にひっかるのは、「客になりそうな高齢者」だけであって、私達には関係ない!(高齢者には気の毒だけど!)”と思われたのではないでしょうか?

 

 そんなことはありません!

誰でも簡単に詐欺に掛かる危険性を孕んでいるのです。

実は、先週私も、この「訪問販売による悪質な住宅リフォーム」の被害者になる寸前に陥ったのです。

 

 その日の午後は、外は小雨が降っていました。

玄関の呼び鈴が鳴りましたので、出て行くと(木村拓也に似た)若者が
“ご近所で工事しますので、お宅の前の道をはしごをつけた車が通ったりしてご迷惑をかけますが宜しく御願いします”と丁寧に挨拶しました。

 その数分後又、呼び鈴がなりました。

そして、先ほどの彼が言いました。

“お向かいの家に、挨拶して振り向いたら、お宅の(鉄板)屋根の一部が盛り上がっていて、其処から雨が進入して屋根裏が腐ったりして危険ですから、ご自分で屋根に上がって釘でも打っておいたらよいですよ!”

“屋根なんか上がって、滑って落ちたら危ないから、一寸あなたが屋根に上って釘を打ってくださいよ。”

“では、今の仕事の合間に来て直してあげましょう。”

“お幾らですか?”

“簡単ですから、1000円頂ければ結構です。”

“じゃ御願いしますね!”

 

 雨の中、わざわざ修理してくれるのに、1000円では申し訳ないと思い2000円を用意して待っていましたら、暫くしてから又呼び鈴が鳴り、若者は屋根に上りました。

そして、彼の同僚に
“下地の板が腐っているから、少しハンガーで持ち上げなくてはならない〜〜!”とか言っている声と、釘を打つ音などが聞こえましたが、直ぐに彼らは玄関に来て、
“天袋はありますか〜〜!”といって上がりこんできました。

ですから、天袋に案内して屋根裏に彼らを上げました。

 

 そして、天井裏から “おとうさん〜〜!大変だ!上ってきてみてください!”との彼らの声がしましたので、天井裏へ行くと“この棟木にひびが入って、ほぞが上がってしまったりしていて、危険です。直ぐ業者(基礎屋)を呼んで直してもらったほうが良いよ。今どうしたらよいかを図に書いてあげるね。”といって部屋に戻って、次のような図を書いて説明し始めました。

彼らが残した図面


そして、その工事代は、150万円は掛かるだろうと言いました(何しろ、天井裏は換気が悪く、木材は黴たりしているから、換気扇も設置する必要がある……)。
その上、
”お父さんが基礎屋へは直接依頼することは出来ずに、工務店を通さなくてはいけないよ。”とも言いました。

それでも、2000円を渡して帰って貰いました。

 

 ところが又直ぐに呼び鈴がなり先の若者が玄関に立っており言いました。

“良かったら、仕事の合間(多分7月の初め位)に、僕らが(工務店を通さず直接)直してやるよ。代金は半額の80万円でよいよ、何しろ材料を自分達で調達するくらいの値段でよいのだから”と、とても親切そうな顔で申し出るのです。

 

 このように親切そのものといった感じで接してこられて、工事を半額だやってあげると申し出られては、断るのは大変です。

でも、私は、
“友人に、家の耐震対策を依頼しているので、彼にその際頼むから結構です。”と断りましたら、“平屋だったら、耐震対策なんか不要だよ!”と言って、彼らの工事を盛んに薦めました。

 それでも、“友人に頼むから結構です。”と断りますと、“そんな悠長な事を言っていると、屋根は、一月半もしたら、落ちてしまうよ!”と怖い顔をして脅しました。

でも“あなたは親切な方でその親切を断るのは辛いけど、あなたは親切な方だからこそ、私が友人に依頼していた仕事を無に出来ない気持ちを分かって頂けるでしょう。”と言って断りましたら、とっても怖い顔をして帰って行きました。

 

 何故、この若者達が「訪問販売による悪質な住宅リフォーム」に関与していると私が判断したのは、私はかって友人(材木屋の社長)が、彼の販売する木材をプレカット(コンピュータ制御した機械で、木造家屋用の材木を自動加工で、所定の寸法にカットして、ほぞ穴、ほぞ加工処理)する事業の立ち上げを手助けした体験があったからです。

そして、その体験から次の点で彼らへの疑問が湧いたのです。

 

1.天井裏を工事する「基礎屋」など、聞いたことはなかった。

2.火打ち金具は、土台のコーナー部の補強に使うのであって、天井裏への使用は聞いた事がない。

3.木造家屋に使用されている木材はヒビが入っていたり、黴ていたりするのは、驚くようなことではない。

 

 それに、改めて新聞記事を読みますと“業者は「アンテナが傾いている」などと言ってまず屋根から入ることが多い”とありますように、私に降り掛かった事件も屋根から入って来たのでした。

 

 それでも、「悪質業者の親切もどき」を断るのは大変です。

その上、彼らは、書き残した図面にありますように、尤もらしい専門用語(?)を使って素人を騙そうとするのです。

以上の3点についてでも、疑問ではありますが、

“こんなに親切に言ってくるのだから、彼らの言にも一理あるのかしら?”(天井裏を工事する「基礎屋」が存在したり、火打ち金具を天井裏に使用したり……)とも思ってしまいます。


 こんなに親切に言ってくる人を断るのは申し訳ない、騙されているのかもしれないが、少し位の出費で、彼らの親切に報いる事が出来るのなら、今回は彼らに依頼してみようとか、断るとあんなに怖い顔をされるのだから、断ってしまったら後で何されるか分からないから、この際は、工事を依頼してみよう……

 

この拙文を読まれた方々も、是非新聞記事の「悪質な業者は断り切れない高齢者につけ込み、しゃぶり尽くそうとします」に於ける「悪質な業者は断り切れない高齢者」は自分とは全く無縁とはお考えにならない事が肝要と存じます。

そして、「高齢者」でなくても、親切を装って近付く詐欺を断るのは大変困難であることを頭の中に刻み込んでおいて頂きたく存じます。


目次へ戻る